小欲と大欲

 どんな大きなものでもスッてみせると豪語するスリがいました。

折も折、大きな牛を引いたお百姓さんが通り過ぎた。

ニヤッと笑ったスリ、何を思ったか急に走りぬけた。

仕事帰りの百姓、道を急いでいたが、ふと道端に真新しい靴が片方落ちているのを見つけた。

しかし片方ではどうもナァ、馬鹿な奴もいるものと手もかけずに通りすぎが、やがて半道もいったところ、又靴が片方落ちていた。

見れば先の靴のもう一方の靴である。

ひょっとしたら誰かがと前後を見るに幸いに人通りはなかった。

かねて欲しがっていた靴が今にも手に入ると喜んだ百姓、牛を道端の木に繋ぎ急ぎ道を戻った。

喜びいさんで靴を手にした百姓、帰ってみればどうしたことか牛がいないではないか。


まんまとスリのかけたワナにかかった。

小の欲に目がくらんだ百姓、自分の最も大事な生活の糧ともたのむ牛を失って頭をかかえこんだという話がある。


五欲即生活


 この靴を五欲、牛を仏教としたらどうか。

五欲とは食欲、財欲、色欲、名誉欲、睡眠欲である。

靴ならまだしも、どれをとっても好きなものばかり、欲望即生活である。

人間、上は大臣から下は乞食まで五欲に生き、五欲で死んでいくのが実情ではなかろうか。


 食物のうらみとか、衣食足りて礼節を知るといわれるように、まず第一番目に食欲がくる。

ところが人間満腹になればさえ良いものでもない。

ダテに食い道楽、食い倒れの言葉があるのだろうか。

あれが食べたい、これが飲みたい。

甘いもの、辛いもの、珍しいもの新しいものとおいかける。

又どんなおいしいものでも3日と続けばもう飽きがきて、次のものを求め食欲は尽きるところがない。


 次に財欲──お金、財産への執着である。

人生の大半はこの金、財産の為に費している。

夜を徹して働くのも、毎日車で出勤するのも、まずは金の為である。

仕事が好きではなく金が好きなのが本音である。

この為、人間一日のうち最低8時間は会社に或いは自分自身の仕事に拘束されつつも汗水たらして励んでいる。


 俗に三番目といわれるが、男女のたのしみ色欲も又旺盛である。

色気がなくなったら仏法が聞けないとか、スズメ百まで…を忘れずといわれるようにこれも好きなものの一つである。


 これを煽るように巷には欲情をそそる看板や書物、週刊誌があふれている。

近頃はフリーセックスが騒がれているが、週刊誌をとりあげるまでもなく、心の中は千古の昔から、フリーセックスそのものではなかったろうか。

不況どこふく風、モーテルが立ち並び、ネオン街の灯はつきることがない。


 四番目が名誉欲──人に良くみられたい、嫌われたくない、人の上に立ちたい、人を蹴落しても自分があがりたい心である。

人の為に尽すのもこれなら、選挙の際の醜い確執もそれである。


 人間の暮しぶりから見てもわかる。

生活の苦しい時は人よりまずいものを食い、質素な着物、ボロ家に住んでいるが、やがて収入が増えてくるとそれに見合ったように家は増改築、服装も良くなる。

勿論食物も良くなり、そろそろ役職が欲しくなる。

最近は借屋住いの自家用車族もいるが、ものは考えようでどこかで優越感を味っている。

恥の為に千金を投げ出すのは名利欲、ひるがえって恥も外聞もかなぐり捨て、損得に走るもの、人間さまざま五欲の渦の中でもがきづくめである。


 最後に睡眠欲──これに一たびおそわれただら、たまったものではない。

場所もわきまえず、舟をこぎだす。

好きなだけ寝られることのうれしさは又格別、土曜の夜と日曜の夜を比較してみるまでもない。



ブタに真珠

 かくも欲は限りなく深く、人間をそのとりこにさせる。
いや人間はそれを限りなく愛している。

 しかし考えてみるに、これらはたとえ得られたとしても所詮は相対のもの、上をみればキリがなく、死の前には何の役も果しえないものばかり、人間一生を賭けるには値しない小欲の部類に属するものといわなければならない。

 ところでほとんどの人間がこの五欲を満たさんと生活している時、これを小欲とするならば、それ以上のものは何か、大欲というものがあるのだろうか。

ある!!いま死が目の前に来ても壊れない絶対の幸せ、吸う息、吐く息がしあわせ一杯という生涯最大の大欲をふるい立たせる幸福がある。
その身になるのが本当の生きる意味である。

阿弥陀如来の本願に救われ、信心決定のあかつきは
「うれしさを昔は袖につつみけり、今宵は身にも余りぬるかな」
と身に満ちあふれる幸福がある。

苦悩渦巻く人生がそのまま光明の広海!この無上の幸福を求め得ずしてどこに人生の所詮があろうか。


 せっかく身にそなわった欲を持ちながら(?)この大欲に目がくらまないのは、“ブタに真珠”その値、価値がわからないからである。

宝の山に入りて手を空しくして帰ろうとするのか。

いつまで木に牛を繋いでおくのだろうか。


 まず浄土真宗の法話聴聞に身を沈めよ。



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